外山 滋比古「思考の整理学」を読みました。
大学の書店でおすすめされていたので買ってみたのですが、薄い見た目に反して内容が濃く、本当に面白い本でした。
本の内容
タイトルから連想させる「思考の整理方法」以上に、
自分で考え、創造的な思考をする人間になるためにはどうしたらよいか
というのが間違いなくメインテーマです。
30年前…。まだコンピュータがほとんどの家庭になかった時代に書かれたものとは思えない視点の数々には驚かされました。
飛行機人間になるためには
著者である外山先生は、今の学校教育によってでは、自分の力で考えることができない「グライダー人間」が量産されてしまうと述べています。
グライダー人間は他人からやらせられる事には優秀ですが、自分の力で飛ぶことができないため"創造的思考"ができません。
これまでの時代では、グライダー人間が得意な「与えられた仕事を従順にこなすこと」「ものを覚えること」が人間にしかできない能力だとみなされてきました。
しかし、これらの能力をグライダー人間以上に優秀にこなすコンピュータが出現したため、グライダー人間は不要になってしまう時代がくると述べています。
(素晴らしい先見の明です。確かに現在では「博識である」ことが以前よりも重要ではなくなってますよね。)
ものごとに対して主体的に、創造的に取り組む能力を持った人間、すなわち「飛行機人間」を育てていかなければならないと彼は述べています。
そのための思考を整理し、深めるための方法がこの本には詰まっています。
豊富な思考を深めるキーワード
たくさんの思考を整理するための方法があったのですが、ここでは全部紹介しきれないので、一部を紹介します。
いかにうまく忘れるか
これまで僕らは頭を知識を入れる「倉庫」のようなものだと思い、知識を蓄積することに大きな価値を見出してきました。
そのため子供の時から、僕らには学んだことを忘れてはいけないというプレッシャーがありました。
しかし今は違います。僕らは飛行機型人間にならなくてはなりません。
そのため自分の頭の中を「工場」であるととらえなおす必要があるのです。
そして工場内にいらないものがたくさんあっては、じゃまで仕方ない。
よって僕らとしては不要なことをいかにうまく忘れるかが重要になります。
忘れる行為として挙げられるのが、「睡眠」「汗を流す」「メモを取る」などですね。
そうして考え事を忘れて時間を置くと、余計な部分が剥ぎ落とされて、思わぬ答えが浮かび、解決に至ることがあります。
第一次的現実
この本では、物理的現実そのままを「第一次的現実」、そこから編集された観念上の世界を「第二次的現実」(本、テレビなど)と呼んでいます。
これまでの人類史では、ほとんどの人間が第一次的現実の中に生きていました。
主な人間の知的行為は本を書くなどの第二次的現実の形成に向けられていました。
しかしテレビの登場以後、僕らの周りには第二次的現実があふれていて、僕らはそれ中心の生活を送っています。
これは人類の精神史上の革命といえます。
そして第二次的現実があふれたこの世界では、従来の第二次的現実からの思考方法よりも、むしろ第一次的現実からの思考方法の方が重要なのです。
というのも、第二次的現実から生じた考えでは、抽象性が高まり、かえって現実性が希薄になってしまうからです。
現実性が希薄になった考えからは、創造的な考えは生まれません。創造的な考えは、おそらく、現実の具体的なものから生じるのです。
したがって、現代を生きる僕らは、本を読むなどの第二次的現実内での知的活動だけではなく、普段の行動から考え、整理し、新しい世界を作る第一次現実内の知的活動を重視すべきなのです。
豊富な表現
上のような斬新な考えに加え、もう一つこの本で面白いところは、「グライダー人間」や人の頭を「倉庫」と表現する、比喩や例えの多様さです。
外山先生は、ところどころで、うまい例えを使いまくってます。それが僕らをスムーズに読み進めるのに役立っているように思います。
近親交配(inbleeding)が良くないことを示すときに、桃太郎を引き合いにだしてきたのは、思わず笑ってしまいました。
そんなツッコミどころもある本ですが、僕は好きです。
そんな表現を楽しみにしながら、軽快に読んでいくのもいい読み方だと思いますね。
「思考の整理学」総括
僕らはたくさんモノを考えることができ、覚えることができます。
そのなかでより的確で鋭い思考をするためには、むしろそれを整理する方が重要ではないでしょうか。
この本には、それを上手にするためのヒントがたくさん隠されています。
「もっと頭良くなりたい!」「頭の中で整理する方法が欲しい!」
もしあなたがそんな考えを持っているのでしたら…
時代が変わっても読み続けられる良書といえるこの本をお勧めします。
評価:★★★★